商談解析クラウド「ailead(エーアイリード)」を提供する株式会社ailead。その代表取締役・杉山大幹さんは、「これは“議事録AI”ではない」と言い切る。モデルがものすごい速さでコモディティ化していく時代に、では何で勝つのか。大学1年からスタートアップのど真ん中で育ち、前身の事業が立ち行かなくなる局面もくぐり抜けてきた杉山さんは、いま何に賭けているのか。連載「山本が、会いに行く。」第3回は、山本の“地元の先輩後輩”でもある杉山さんを訪ね、AIの本質と、経営に懸ける想いを聞いた。
① 出会いと関係性
“地元の先輩後輩”という間柄
山本と杉山さんは、じつは横浜の“地元の先輩後輩”だ。中学校のエリアも近く、どこか通じ合う空気がある。「地元の先輩、という親近感があるんですよね」と杉山さんは笑う。
二人が出会ったのは、杉山さんが前身の事業からピボットし、ailead を立ち上げはじめた頃。人の紹介がきっかけだった(きっかけの詳細は、お互いうろ覚えらしい)。がっつり同じ仕事を共にした、というより、経営者同士・地元の間柄として近い関係を続けてきた。
だからこそ、今回の取材はビジネスの“売り込み”とは無縁だ。「杉山さんの話が、僕自身いちばん聞きたかった」——山本がそう言って訪ねたところから、この対話は始まった。
② 経歴と、今の仕事
大学1年から、スタートアップの“ど真ん中”へ
杉山さんのキャリアは、驚くほど早く始まっている。中央大学附属高校から中央大学へ。大学受験がない分、時間があった。「あんまりやることがないな、と思って」——大学1年から、働き始める。
きっかけは一冊の本だった。インターネットビジネスやスタートアップ黎明期(いわゆるビットバレー)に関心を持ち、登場人物を片っ端から調べ、Facebook の若手募集に自分から DM を送って飛び込んだ。完全成果報酬のテレアポのアルバイト(1日100件)で社会の入口を知り、やがて East Ventures(イーストベンチャーズ)に出入りするようになる。
そこは、日本のスタートアップの“ど真ん中”だった。パートナーの松山太河さんらに可愛がられ、ちょうどメルカリの創業初期。East Ventures が初期に出資し、杉山さんはメルカリのシェアオフィスで、ゴミ捨てや机の組み立てから間近に見ていた。その後、メルカリの新規事業子会社ソウゾウでインターンとして、プロデューサー的にアプリ開発やサイト制作に関わる。「新しいものを生み出す側でいたかった」。

そして自ら起業。会社は「バベル」を経て、商談解析クラウド「ailead」へとたどり着く(社名も株式会社ailead へ変更)。ailead のリリースは、およそ4年前。いまは少人数ながら、急成長の只中にある。
株式会社ailead(ailead, Inc.)について
商談解析クラウド 「ailead(エーアイリード)」 を開発・提供。旧社名は株式会社バベル。本社は東京都港区赤坂。
商談などの対話データを解析し、営業や採用の現場をデータドリブンに変えていく。サイバーエージェントをはじめ、大手企業でも導入が進む。
▶ ailead:https://www.ailead.app/
③ 起業の背景と覚悟
売上が、一瞬で吹き飛んだ。それでも“作る側”であり続ける
杉山さんが“作る側”を志したのは、学生時代の原体験が大きい。大学生の頃から、身近でVCやスタートアップの経営者たちの姿を間近に見てきた。ゼロから事業を生み出し、世の中を動かしていく——その姿に触れるうちに、「自分も、作る側に回りたい」と思うようになった。
やがて自ら起業する。最初に手がけたEコマース事業などでは、かなりの収益を立てられるところまでいった。ところが、コロナだった。それまで積み上げてきた売上が、一瞬で吹き飛んだ。「正直、そこから数年の記憶がないくらい、ハードでした」。淡々とそう振り返るが、その一言に、当時の壮絶さがにじむ。
それでも、杉山さんは折れなかった。持ち前の先見性で、世の中がAIに沸くよりもずっと早いタイミングでその価値に気づき、そこにbetしてきた。「時代が追いつく前から、そこに賭けていた」。その積み重ねの先に、いまの ailead がある。
だからこそ、その覚悟は静かで、揺るがない。起業家として、この事業を——この会社を成長させきることこそが、自分の覚悟なのだ、と杉山さんは言う。
④ AI時代における ailead の勝ち筋
モデルはコモディティになる。勝負は“コンテキスト”だ
杉山さんの見立ては明快だ。「“AIで全部解決”という発想は、たぶん起こらない」。巨大な万能AIが一つあれば済む、という世界観を、杉山さんははっきり否定する。
理由は、モデルのコモディティ化だ。フロンティアのモデルが高性能なものを出しても、オープンソースや各国のラボが猛烈な速さで追いつく。「良いモデルを出しても、数か月で追い越される時代。モデルそのものでは差がつかなくなる」。ユーザーからすれば、どの頭脳でも性能が高ければいい——そういう方向に向かっている。
だからこそ、勝負どころは別にある。“コンテキスト”と“データ”だ。会社ごとの文脈、記憶、そして誰が何にアクセスできるかという権限管理。それらを内包した“頭脳”を、企業ごとにどう作るか。そこにこそゲームがある、と杉山さんは言う。
ailead は、その入口に立つ。商談をはじめ、あらゆる対話・コミュニケーションのデータを取り込む“ハブ(センサー)”として機能する。単なる議事録の自動化ではない。営業会議で語られる今期のターゲットや、媒体資料、競合、ICP——商談そのものには現れない“欠けたコンテキスト”までを束ねてこそ、AIは正しい示唆を出せる。
山本も膝を打つ。「みんな“議事録を作ること”が目的になりがちだけど、杉山さんはデータそのものを見ている。そこが事業家だなと」。AIエージェントの本質は、モデル・実行のループ・ツール・そしてコンテキスト・記憶・権限という要素の組み合わせにある。前半は急速に発達したが、後半のコンテキスト・記憶・権限はまだ未解決——そこにこそ ailead の機会がある。実際、企業ごとに異なる評価軸を吸収した採用選考の自動化など、実装も進む。
一方で、山本は課題も率直に指摘した。「プロダクトは相当先進的なのに、外からは“議事録AI”に見えてしまう。ここはリブランディングとポジショニングの明確化が要る」。データレイヤーの覇権を狙うなら、ユーザーの頭の中の“地図”のどこに立つのかを、もっと分かりやすく示す必要がある——旧知の間柄だからこその、遠慮のない助言だった。
⑤ 大事にしたい価値観
ロープロファイルという美学
杉山さんが大切にしている言葉がある。「ロープロファイル」だ。East Ventures 時代、グローバルに活躍する先輩から学んだ価値観だという。「過度に注目や関心を集めにいかない。目立たないことそのものが、一つの美徳だ、と」。実力も実績もある。けれど、それを声高にアピールしない。その佇まいに、杉山さんは強く惹かれた。
その美学は、経営の姿勢にもつながっている。売り抜かず、続ける。お世話になった人を大事にする。そして「AIで全部解決」という華やかな物語に流されず、コンテキストという本質と、泥臭い実装に、静かに向き合い続ける。派手さより、積み上げ。杉山さんの一貫性は、そこにある。
終わりに
この会社が“やりきる”のを、見てみたい
取材を終えて、山本はこう漏らした。「杉山さんが、これをやりきるのをめちゃめちゃ見てみたい」。“議事録AIではない”という ailead の本質に、旧知の先輩がいち早く気づいた対話。それは、地元の先輩後輩だからこそ交わせる、率直で熱量のある時間だった。
売上が一瞬で吹き飛ぶどん底をくぐり、それでも“作る側”であり続けると決めた——杉山さんが覚悟を懸ける ailead の物語は、まだ始まったばかりだ。