Before
導入前の課題
- 事業成長に耐えうる業務体制を築きたい
- 複雑な業務を標準化できる状態にしたい
- 変革に向けた経営判断の精度を高めたい
After
導入後の変化
- 業務全体の構造と依存関係を可視化
- 現場と管理者の課題認識を構造化
- 優先領域を特定し、実装の議論が前進
スマートロックをはじめとした“ハード”と、システムやサービスなどの“ソフト”をシームレスに連携させ、新たな暮らし方や働き方の創出を目指す株式会社ビットキー。急成長を続ける同社のhomehub事業(住宅向けにスマートロックなどを提供し、暮らしの利便性向上や不動産事業者の業務効率化を進める事業)では、事業規模の拡大とともに業務が複雑化し、将来の成長を見据えた業務標準化が急務となっていました。
そこで株式会社yourVintageは、homehub事業の賃貸マーケット向け業務を対象とする整理プロジェクトに参画。社内にも全体像を示す資料がない状態から、約4カ月にわたって関係者へのヒアリングと業務の可視化を行いました。途中の大幅なスコープ拡張も乗り越え、経営判断と次のシステム実装を前進させた超高難度プロジェクトの意義とは?株式会社ビットキーの中瀬 純さまに、現在の手応えを聞きました。
(この記事の登場人物)
中瀬 純さま株式会社ビットキー
経営管理第二本部 業務DX推進チーム チームマネージャー 兼
homehub事業本部 homehub事業本部長付
山本 恭平株式会社yourVintage
代表取締役
急成長の裏側で複雑化していたhomehub事業のオペレーション
——今回のプロジェクトが立ち上がった背景を教えてください。
中瀬さま:ビットキーでは、住宅における暮らしの体験をアップデートする「homehub事業」を展開しています。幸いにも多くの引き合いをいただいており、事業は急速に成長してまいりました。一方、その成長過程でオペレーションが複雑化していたことが、今回のプロジェクトの背景にあります。
現場のメンバーは優秀で、一人ひとりがお客さまに向き合い、目の前の案件を成り立たせてくれていました。ただ、ビジネスの成長に合わせて一人ひとりの業務負担は高まっており、今後さらに事業規模が拡大したときにも同じ方法を続けられるとは限りません。「この業務では全員がこの方法を使う」「データはこの形式で管理する」といった標準化を進めなければ、案件数が増えた際にオペレーションが崩壊する懸念がありました。
そこで、まずは現在の業務がどうなっているのかを整理し、そのうえでシステム化や業務パフォーマンスの向上につなげる必要があると考えました。
——今回、homehub事業の中でも「賃貸マーケット向けの業務」が対象となったのはなぜですか?
中瀬さま:homehub事業の中にも複数の領域があり、たとえば既存の賃貸物件を管理する「管理会社」さまへの導入と、新築物件を開発するデベロッパーさまへの導入では、業務のあるべき姿が異なります。
どの領域から着手することが、今後の成長を考えたときに最も効果的なのか。プロジェクトを立ち上げた2026年1月はその検討から始めました。COOやhomehub事業責任者を含む経営陣とも議論を重ねた結果、事業規模が大きく、業務上の課題も顕在化していた賃貸マーケット向けの業務を対象とすることになりました。
この領域は、関係者が非常に多いことが特徴です。たとえば管理会社さまからスマートロックをご発注いただいた後で、物件の所有者であるオーナーさまの承諾が必要になる場合があります。実際に製品を利用する入居者さまへの案内も必要ですし、設置作業を担うパートナー事業者との連携も欠かせません。
物件によって条件は異なり、マンションの共用部と各住戸の専有部でも扱う製品が変わります。入居中の住戸であれば、設置するタイミングも調整しなければなりません。こうした多数の条件や関係者が絡み合い、業務を複雑にしていました。

対象範囲すら見えない難題に正面から向き合ったyourVintage
——ビットキーには、システムや業務に精通した専門人材が数多く在籍しています。それでも外部のパートナーが必要だったのでしょうか?
中瀬さま:社内だけでできるなら、それが理想だと思います。しかし、現場のメンバーにはそれぞれ担当するお客さまがいて、日々の業務に全力で取り組んでいます。どれほど優秀であっても、自分たちの業務を俯瞰し、全体を整理するための時間を確保するのは困難でした。
また、構造化されていなかったり断片的な表現になる業務説明を整えて資料で表現するために、高度なスキルが必要です。外部のプロに客観的に見てもらい、「なぜこの業務が必要なのか?」「別の方法はないのか?」と問いかけられることで、話している本人が初めて気づくこともあるでしょう。今回のプロジェクトに関わった多くの社内メンバーが、その価値を実感したと思います。
そもそも私たち自身も、業務の全体像を完全には把握できていませんでした。社内に「これがすべての業務パターンです」と示せる資料がなかったんです。何を実現したいかを考える以前に、「今、何をしているのか」を明らかにすること自体が、非常に難しい状況でした。
——yourVintageへ依頼する前には、他の企業にも相談していたのでしょうか?
中瀬さま:コンサルティングファームなど、複数の企業に相談しました。しかし、今回のプロジェクトは作るべきシステムや仕様が決まっている状態ではありません。業務全体を根本から整理する今回のプロジェクトについては、難易度の高さを理由に参画を見送られるケースもありました。
その中で山本さんは、対象範囲が明確ではない段階から「やりましょう」と言ってくれたんですよね。ビットキーからの発注前、営業段階で、典型的な関与ではなく、熱心なヒアリングを行って頂き、プロジェクトの意義や必要となる労力に本気で向き合う覚悟を示してくださいました。
山本(yourVintage):最初の打ち合わせで、通常の方法では要件を定められないほど大きなプロジェクトだと感じました。私自身は当時、yourVintageを創業したばかり。「全力で取り組めばできないことはない!」という気持ちで、中瀬さまの期待値を無難に調整するのではなく、本気でコミットしたいとお伝えしたんです。
そうやってこちらが全力のストレートを投げると、中瀬さまも正面から受け止め、同じように全力で返してくれました。この方なら率直に意見を交わしながら進められる。そう感じられたからこそ、私は本気になれたのだと思います。

抽象と具体を往復し、それまで存在しなかった業務全体図を構築
——プロジェクトは、どのように進められたのでしょうか?
山本(yourVintage):最初は、中瀬さまからビットキーの事業や業務について集中的に教えていただきました。ビットキーは、ソフトウェアやプラットフォームを提供するIT企業の顔とハードウェアを作るメーカーの顔をお持ちです。それゆえに、 物流や設置、その後の利用促進まで幅広い業務があります。関係する領域とステークホルダーが非常に多く、全体を理解するだけでも相当な情報量でした。
この膨大な情報の海の中、約4カ月という期間で必要な要素を把握できたのは、中瀬さま自身が多くの時間を割き、高速で情報を共有してくださったからこそです。
次の段階では、中瀬さまから得た情報をもとに現場の各担当者へヒアリング。「中瀬さまの分身」として現場へ入り、実際の業務を確認しながら、最初に聞いた全体像との答え合わせをしていきました。その内容を再び中瀬さまへ持ち帰り、抽象的な全体像と、現場で行われている具体的な業務を何度も往復しながら、情報を肉づけしていったんです。
中瀬さま:山本さんには、受注後に製品やサービスの利用を進めていく過程でどのような業務があり、それぞれがどう関連しているのかを整理してもらいました。
たとえば「オーナーさまの承諾を得る」という一つの業務だけでも、その中には数多くの作業ステップがあります。山本さんは、それらを一つずつ書き出し、すべてのつながりを図にしてくれました。
さらに、各業務の内容を一覧化し、どのような課題があるのかも整理しました。同じ業務でも、実務を担う本人と管理者、事業責任者では、それぞれ課題の見え方が異なります。関係者へのヒアリングを通じて、それぞれの認識まで書き起こしてもらっています。
それまで社内には、業務全体の依存関係と課題を一望できる資料がありませんでした。部分的な説明はできても、全員が同じものを見ながら全体について話せる状態ではなかったんです。今回、その議論の土台が初めて整いました。

途中でプロジェクトのスコープが変わっても、スピードを落とさなかった
——プロジェクトの中で、最大の山場となったのはどのような場面でしたか?
山本(yourVintage):4月から5月にかけて、プロジェクトのスコープが大きく変わったことです。当初は、中瀬さまが最も課題を感じていた領域を中心に整理し、そこから全体の改善につなげる想定でした。
しかし、現場の専門家へ話を聞くほど、周辺業務との依存関係や、別の重要な課題が見えてきました。ビジネスは常に動いていますし、立場によって見えている課題も異なります。途中段階の「全体図」を経営陣にご覧いただいたとき、「さらに大きい業務範囲を捉えていただきたい」という不足の指摘、依頼が発生したため、改めて関係者を巻き込みながら、「どこを中心に据えて全体を整理すべきか」を再定義し、合意形成をやり直す必要がありました。
中瀬さま:私を含め経営陣も「全体図」の正解が書けていないからこそ本プロジェクトを始めている経緯があり、山本さんが作ってくれた全体図も、何度も見直していただきましたね。
山本(yourVintage):中瀬さまから何度も「違う」と言われ、そのたびに修正しました(笑)。
現実には、最初から完璧なものを作ることはできません。何もない状態から、まず1枚、5枚、10枚と資料を作る。それを見ながら「何が違うのか」「何が足りないのか」を議論することで、プロジェクトは前進します。当初は位置づけを誤っていた図も、最終的には必要な構成要素として生かすことができました。
中瀬さま:山本さんたちは、スピードを落とさずにアウトプットを出し続けてくれました。完成形ではなくても、まず形にしてくれるため、私たちはそれを見ながら不足している要素の議論に集中できます。
今回のような取り組みでは、プロジェクト開始時にすべてのスコープを固定するのは困難です。大きなゴールは共有しながらも、どこまで実現すれば合格なのかを、その都度高い水準に置き直していきました。変化し続ける状況にも山本さんはついてきてくれましたし、社内のプロジェクトマネジャーである私が細かな進行管理をしなくても、自発的にプロジェクトを前へ進めてくれました。

経営判断と次の実装を前進させる「変革の土台」が完成
——約4カ月のプロジェクトを経て、どのような成果が生まれましたか?
中瀬さま:6月末までの支援では、As-Is、つまりTo-Beを描く基礎になる業務理解をイレギュラーパターンも含めて網羅的に表現しきる活動が完了しました。単に「現在はこういう業務をしています」とまとめるだけでなく、そこにどのような課題があり、私たちがどの課題を優先的に認識すべきなのかまで整理できたんです。
以前から現場の各担当者は、自分の業務で何に困っているのかについては説明できていました。しかし事業全体を見たときに、どの課題を最初に解決すべきかを自信を持って判断できる状態ではありませんでした。すべての業務を整理できていなかったため、中長期的な成長を維持するうえで、どこが最も重要なポイントになるのかを客観的に説明できなかったんです。
今回、仮説として持っていた課題感を、全体の構造に基づく確証へ変えることができました。事業責任者が「まずはここから変えるべきだ」と自信を持って話し、その根拠を他の経営陣にも示せるようになったことは、大きな前進だととらえています。
整理した内容をもとに、事業責任者が中期的な戦略を言語化し、社内で共通認識を形成する動きも始まりました。優先領域を実現するためのシステム開発についても、homehub事業の開発責任者が参加し、実装へ進んでいます。
——yourVintageの支援を、どのように評価していますか?
中瀬さま:非常に高く評価しています。この複雑性と対象範囲を考えれば、相当難しいプロジェクトでした。その中で、とにかくスピードを落とさずに走り続けてもらえたことが大きかったですね。
山本さんは、目的達成に対する想いがとても強いんです。依頼された作業をこなして報酬を受け取ることに留まらず、「ビットキーが本当に実現したいことは何か」を自分ごととして考えてくれました。私たち自身が本来の目的から少しずれた方向へ進みそうになったときには、「それは違うのではないか」と正面から指摘してくれることもありました。
そんな山本さんが率いるyourVintageを、一般的な「外部パートナー」という言葉でくくることは難しいですね。それだけ特異な支援をする会社だと思っています。
山本(yourVintage):今回のプロジェクトは、私自身にとっても過去最大級のコミットメントが必要なものでした。中瀬さまから率直な意見をいただき、毎週のように自分たちの限界を更新する経験ができたと感じています。
そんなハードなプロジェクトをやりきれたのは、中瀬さまをはじめ、ビットキーの皆さまへのリスペクトがあり、お互いに共通の目的へ向かっていることを理解できていたからこそ。ビジネスパーソンとして目標にできる中瀬さまと出会えたことは、私の財産となりました。